都心を中心に新築マンション価格の高騰が続くなか、中古マンションの人気はますます高まっています。
中古マンションには新築マンションと異なる気をつけなくてはならない点がいくつかあり、そのひとつに建て替えの可能性があります。
築年数が経って老朽化したマンションを建て替えずそのままにしていると、建物に重大な欠陥が生じるなど、住環境を大きく損ないかねません。
しかし、建て替え費用がかさむことなどから、実際に建て替えが実施されている件数は少ないのが現状です。
この記事で学べること・ポイント
- 中古マンションの建て替えが進んでいない現状と、その理由
- 中古マンションの建て替えを実施するまでの流れ
- 中古マンション建て替えにかかる費用の目安と、負担額の減らし方
- 建て替え以外の方法

中古マンションの建て替えと現実

現在、日本全国のマンションストック総数は700万戸以上※1あり、そのうち約136.9万戸※2が築40年以上の中古マンションです。(2023年末時点)
しかし、その中で建て替えが実施されている件数はあまり多くありません。
まずは、中古マンションの建て替えに関する現状と、なぜ建て替えが進みにくいのかを解説します。
※1 国土交通省:分譲マンションストック数の推移
※2 国土交通省:築40年以上のマンションストック数の推移
中古マンションの建て替えは進んでいない?
建築から年数の経ったマンションは、老朽化のため建て替えの必要性が高まってきます。
しかし、現実には、建て替えが実施されるマンションは多くありません。
2024年4月1日時点における全国のマンションの建て替え実績は、累計で297件(約24,000戸)※3でした。
マンションを建て替える場合、オーナー=区分所有者にも費用負担が発生します。
そのため、区分所有者の五分の四以上の合意※4を得られなくては、建て替えは実施できないものとなっています。
政府は、建て替えがなかなか進んでいない現状を受け、とくに建て替えの必要のあるマンションについては、現在の基準である「五分の四以上の合意」を「四分の三以上の合意」に緩和する法改正を検討しています。※5
一方で、建て替えを進めるには法律面や税制面の様々な課題をクリアする必要があり、専門知識のない所有者のみで進めるのが困難であることも、建て替えの進まない要因となっています。
※3 国土交通省:マンション建替え等の実施状況
※4 e-ov法令検索:平成十四年法律第七十八号マンションの建替え等の円滑化に関する法律
※5 NHK:マンション関連法改正案を閣議決定 売却など全員同意緩和へ
老朽化のリスクや建て替えが視野に入る年数は?
老朽化の進んだ建物には、設備の不具合や欠陥が生じやすくなり、安全に住み続けるための対策が必要とされます。
修繕で解決できることもありますが、不具合が重なると、修繕積立金が大幅に値上げされる可能性もあります。
税務上の減価償却計算における指標を参考にすると、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造のマンションの法定耐用年数は47年です。
たとえば、下記のような不具合が生じているマンションは、建物の老朽化が進んでいると考えられます。
- 給排水管の老朽化による水漏れ
- 外壁のひび割れや剥落
- エレベーターの故障
マンションに居住を続ける場合はもちろん、売却を検討している場合にも建物の適切な維持は必要です。
また、全国的にマンションの建て替えが進んでいない現状において、とりわけ問題視されているのが災害時のリスクです。
地震などの災害が発生した場合、老朽化したマンションは倒壊や損傷のリスクが高く、住民の安全をおびやかす可能性もあります。

建て替えをはばむ費用負担
マンションの建て替えが進みにくい要因として大きいのが、費用面です。
マンションの建て替えには、解体費用、建設費用、仮住まいの費用など、多額の費用がかかります。
マンション自体の築年が古く費用が高額になる場合や、高齢者世帯のオーナーが多く経済的な余裕があまりない場合、建て替えをしたくても費用が足りないという可能性もあります。
また、多少の欠陥や設備の不具合程度であれば修繕積立金を用いた大規模修繕で修復ができる場合もあり、なかなか建て替えに踏み切るケースが少ないのが現状です。
法律上建て替えの難しいマンションがある
注意が必要なのは、築年数が古く、現在の建築基準法に適合していない既存不適格建築物にあたるマンションです。
既存不適格建築物とは、建築当時は合法だったものの、その後の法改正や都市計画変更などにより、建築基準法に適合しなくなった建築物のことをいいます。
なお、鉄筋コンクリート造のマンションの場合、1981年の改正の内容が適用となります。
既存不適格建築物のマンションは、建て替えを行う際に、現行の建築基準法に適合させる必要があります。
場合によっては、建物の規模を縮小したり、構造を大幅に変更しなくてはなりません。
こうしたマンションの建て替えは費用が大きくなるだけでなく、自治体との細かな交渉なども必要となり、より建て替えのハードルは高くなります。

所有者全員の合意を得ることが難しい
マンションの建て替えを実施するには、区分所有者全体の五分の四以上の合意が必要です。
しかし、実際には建て替えに反対する所有者が多く、建て替えがなかなか進まない現状があります。
たとえ賛成票が充分に集まっていたとしても、全員の意見が一致するとは限りません。
建て替えには賛成だが費用の負担割合に納得できない、あるいは、建て替え後の新しいマンションの間取りやデザインに不満があるなど、様々な理由で反対する人が出てきます。
マンション全体でスムーズに合意を形成するためには、丁寧な話し合いを重ね、情報をしっかり共有していくことが不可欠です。
マンション建て替えまでの具体的なステップ

①準備段階:劣化状況の調査や住民の意向調査
まずは、建て替えの必要性を判断するため、マンションの現状把握のための調査を実施します。
建物や設備の劣化状況や耐震性、これまでの修繕履歴に加え、実際に現在建て替えの実施が可能かどうかをはかるため、住民の年齢構成や経済状況まで詳細に調査する必要があります。
また、建て替えに関する法規制や、利用できる補助金・助成金などの情報の収集も大切です。
これらの調査を管理組合だけで進めるのは難しいため、準備段階から専門家への協力を依頼することもあります。
同時に、住民の意向調査もします。
管理組合、もしくは委託された管理会社が主導して住民アンケートや説明会を実施し、広く意見を集めます。
②検討段階:建て替え計画の具体化
建て替えの必要性があると判断できたら、今度はより具体的に建て替えの計画を立てます。
以下のような事柄は、この段階で決めておきます。
- 建築の基本計画
…建て替え後のマンションの規模や間取り、デザインなど - 資金計画
…現在の建物の解体費用、建築にかかる費用、各住戸の工事中の仮住まい費用など - スケジュール
…各段階における期日など
各事項について、住民説明会などを通して区分所有者と情報を共有しつつ、丁寧に意見を取り入れていくことが求められます。
③計画段階:合意形成と決議
計画が具体化したら、いよいよ区分所有者同士の合意形成をとっていきます。
もちろん、最初は建て替えに反対の区分所有者も少なくないと考えられます。
しかし、そのマンションの建て替えの必要性が明らかに高いのであれば、そのままにしておくこともリスクがあります。
合意形成のためには、複数回にわたる説明会や個別面談を実施し、建て替えの必要性やメリット、デメリットを丁寧に説明することが求められます。
また、反対の意見にも耳を傾け、可能な範囲で計画に反映させることも重要です。
合意形成には時間がかかる場合もありますが、根気強く取り組むことが、建て替え実現への鍵となります。
マンションの建て替えを決議するためには、区分所有法※6およびマンション建替え円滑化法※7に基づいた手続きが必要です。
基本的には管理組合が総会を開いて、マンションの建て替え決議をとります。
※6 e-gov法令検索:民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)
※7 e-gov法令検索:刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和四年法律第六十八号)
④実施段階:組合設立と施工会社の選定、着工
まずは法令にもとづいて知事などの認可を得て、建替組合が設立されます。
建替組合は建て替え事業の施工者となる法人格をもった組織で、建て替えに関する各手続きはこの建替組合が行います。
一般的には、建て替えの参加者である区分所有者とデベロッパーなどの委託される事業者によって構成されます。
続いて、施工会社の選定です。
複数の業者から相見積もりをとって慎重に依頼先を決め、工事費を確定させます。
また、着工する前に必要なのが権利変換認可と居住者の引っ越しです。
工事期間は、マンションの規模や構造によって異なりますが、解体から竣工まで通常1年から3年程度かかります。
工事が完了したら、新しいマンションへの入居が開始されます。
入居後も、管理組合を中心に、マンションの維持管理を適切に行っていく必要があります。
マンション建て替えにかかる費用の実態

区分所有者としては、やはり一番気になるのが費用面ではないでしょうか。
この項目では、マンションを建て替える際の自己負担額の目安や、どうすれば負担を軽減できるかを紹介します。
自己負担額の目安は1,000万円〜3,000万円程度
マンションの建て替えに伴う各住戸の負担額は、マンションの規模や立地、構造など様々な要因に左右されます。
一般的な目安として各オーナーが負担する金額は、1,000万円~3,000万円とされています。
- 解体費用
…既存の建物を取り壊すための費用です。一坪あたり5万円~8万円程度かかるとされています。 - 建築費用
…新しい建物を建設するための費用です。鉄筋コンクリート造のマンションの場合、一坪あたり約100万円ほどかかるとされています。 - 仮住まい費用
…建て替え工事期間中に居住する仮住まいにかかる家賃や引っ越し費用です。都心であれば賃貸でも家賃が高いため、数百万円の出費が予想されます。
また、建て替え費用の中には、各専有部だけでなく共用設備や共用部の工事費用も含まれます。
一般的に共用部もあわせると、各所有者が負担する面積は専有部の1.4倍程度とされています。
- 居住エリア:江東区
- 住んでいる住戸:20坪の3LDK
- 解体費用=20坪×1.4×5~8万円=140万円~224万円
- 建築費用=20坪×1.4×100万円=2,800万円
江東区の3LDKの賃貸に住む場合、平均的な賃料相場は26.1万円です。
※2025年4月5日現在
仮住まい期間の家賃=26.1万円×24ヵ月=626.4万円
上記を合計すると、引っ越し費用を含めなくても約3,500万円~3,600万円程度かかるとわかります。
ただし実際には、マンションの建て替えには管理組合が積み立ててきた修繕積立金も使用されます。
そのため、所有者それぞれの負担額は約1,000万円~3,000万円が相場となります。
費用負担を軽減するには
国土交通省や各自治体では、マンションの建て替えを促進するために、事業タイプごとに様々な補助金制度を設けています。※8※9
建て替え費用の一部を補助したり、低金利の融資を提供したりすることで、区分所有者の負担を軽減することを目的としています。
- 優良建築物等整備事業(マンション建替タイプ)
- 都心共同住宅供給事業(マンション建替タイプ)
- 先導型再開発緊急促進事業
- 21 世紀都市居住緊急促進事業
- 都市再生住宅制度
- まちづくり融資
- 民間再開発促進基金による債務保証制度
例えば、東京都では「マンション建替え等に伴う助成制度(都市居住再生促進事業)」が定められています。※10
「共同施設整備費」「事業計画作成費」「土地整備費」がそれぞれ助成金の対象となり、老朽化したマンションの建て替えにかかる建設費の一部を補助しています。

※補助の有無、内容及び補助額は区市町村により異なります。詳しくは、地元の区市町村のHPをご確認下さい。
補助金制度には、申請期間や要件が定められているため、早めに情報を収集し、準備を進めることが重要です。
また、マンション建替えに関連する税制特例を利用することも可能です。
税法の内容は、毎年改正・追加・廃止があるため、事業の進捗に合わせてその都度専門家に確認することをおすすめします。
※8 国土交通省:建替え支援制度
※9 国土交通省:優良建築物等整備事業
※10 東京都:マンション建替え等に伴う助成制度(都市居住再生促進事業)
マンションの建て替え費用が払えない…そんなときの選択肢
建て替えの決まったマンションで、居住者がとれる選択肢は2つです。
「建て替えに賛成して再入居する」か、「反対して立ち退きをする」かです。
建て替え費用をどうしても払えない場合は、残念ながら立ち退きという選択肢になります。
立ち退きをする場合、建て替え組合による売渡請求を利用すれば、所有する物件を時価で売却できます。
築年数が古いマンションであっても、立地条件によっては、高値で売却できる可能性もあります。
マンションの売却を検討する方におすすめなのが、マンションレビュープロデュースの売却サービス「タカウル」です。
複数の不動産仲介会社に同時に査定と売却を依頼できるだけでなく、スピーディな売却が成立する買取業者とのマッチングも可能です。
また、各不動産仲介会社の仲介手数料割引き率も確認できるため、
- 買取業者に頼んで早期売却したい
- とにかく手取りを増やしたい
- 仲介手数料が高くても実績のある会社に高値売却してほしい
など売主のニーズに合わせての不動産会社選定が実現できます。


マンション建て替え以外の選択肢

マンションの安全性をながく保つためには、適切なタイミングでの建て替えが必要です。
ですが、中にはどうしても区分所有者の合意を得られず、建て替えが実施されない例もあるでしょう。
その場合、所有者が安心できる住まいを維持するためにとれる選択肢もご紹介します。
マンションの寿命を延ばすための大規模修繕
マンションの寿命を延ばすための有効な手段が、計画にもとづいた大規模修繕工事です。
- 外壁の補修
- 屋上防水
- 給排水管の更新
- エレベーターの改修
一般的には10年から15年周期で実施され、毎月徴収する修繕積立金が用いられます。
適切な修繕を行っていれば、将来的にやはり建て替えをするとなった場合にも、工事費を抑えられる可能性もあります。
大規模修繕と修繕積立金については、下記の記事もぜひ参考にしてみてください。

マンション敷地売却制度の活用
マンションの敷地売却制度とは、老朽化したマンションの敷地を第三者に売却し、その資金を元に新しいマンションを建設したり、他の不動産を購入したりする制度です。
敷地売却によって、区分所有者は、建て替え費用を負担することなく、新しい住居に移ることができる可能性があります。
ただし、敷地売却には、専門的な知識が必要となるため、弁護士や不動産鑑定士などの専門家に相談することが重要です。
また、売却価格や条件によっては、区分所有者の損失が発生する可能性もあります。
長期的な視点でのマンション管理
マンションを適切に管理することは、マンションの価値を維持するとともに、建物の無用な劣化の防止につながると期待できます。
定期的な点検やメンテナンスは劣化や欠陥の早期発見につながります。
そのためには管理組合が主体となって、マンションの維持管理に取り組むことが求められます。
区分所有者ひとりひとりが、マンションを自身の大切な資産と認識し、日頃から維持管理に積極的に協力していくことが大切です。

まとめ

高額な費用がかかること、一時的に住まいを立ち退かなくてはいけないことから、マンションの建て替えについネガティブなイメージを抱いてしまうこともあるでしょう。
しかし、マンションを長く安心して暮らせる住まいとして保つためには必要なことでもあります。
A.以下のような壁があるから。
- マンションの建て替えには、区分所有者の五分の四以上の合意が必要になる
- オーナー=区分所有者にも費用負担が発生するため、合意を得るのが難しい
- 建て替えをしたくても費用が足りない
- 築年数が古い既存不適格建築物にあたるマンションは、現行の建築基準法に適合させて建て替える必要があり、自治体との交渉などが必要になる
A.建て替えまでの具体的なステップは、大きく分けて4つ。
- 準備段階:劣化状況の調査や住民の意向調査
- 検討段階:建て替え計画の具体化
- 計画段階:合意形成と決議
- 実施段階:組合設立と施工会社の選定、着工
A.自己負担額の目安は1,000万円〜3,000万円程度。建築費用の他に、解体費用、仮住まい費用なども含まれる。国や自治体の補助金制度や税制特例を活用することで、自己負担額を軽減できる可能性がある。
A.建て替え以外でマンションの寿命を伸ばせるのは、計画にもとづいた大規模修繕工事となる。また、マンション敷地売却制度の活用をすれば、老朽化したマンションの敷地を売却して、売却資金を元に新築マンションを建設したり、他の不動産を購入したりできる選択肢もある。


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